そっと遊騎の身体を押し倒すとシーツに大きな波紋が広がった。
横たわった遊騎の赤い髪が白いシーツには色鮮やかに映えた。
その上に覆い被さるようにして刻が見下ろすと、
遊騎は真っ直ぐ視線を合わせて全身の力を抜く。
そんな遊騎の従順な態度に、刻は少しだけ戸惑うように視線を伏せる。
僅かによれたシャツの襟もとから覗く鎖骨は
自分のそれと比べればまだどこか幼さを残していた。
けれどそこに誘われるように刻は軽く歯を立てて強く肌ごと吸い上げる。
それから首筋へ、ゆっくりと唇を這わせていく。
「……っ…」
尖らせた舌先をつつ、と肌に滑らせると、遊騎の身体が僅かに身じろいだ。
「ん…っ…」
僅かに漏れた声に、どうしようもなく欲情する。
髪に指を絡ませて、舌と唇でそのなめらかな肌を堪能した。
耳から頬へと唇を押し当てるようなキスを繰り返す。
ゆっくりといつくしむ様な愛撫に刻の性格が現れていると、
いつか遊騎に言われたことを思い出す。
遊騎の身体が少しずつ熱を帯びていく。
「……よんばん…」
くすぐったそうに喉を小さく震わせて刻の名を呼ぶ。
遊騎の潤んだ双眸に刻は情欲に囚われた自分の姿を見た。
急激に高まった衝動を抑え込んでそっと背中に腕を回す。
より密着した肌から自分のものでない互いの体温を感じ合う。
自分の腕の中の無防備な身体を、刻はまじまじと眺めた。
おそらく刻にだけ見せる、遊騎の顔。
刻の欲求に答える遊騎の身体。
改めて見ると整った顔立ちは自分のそれより男らしいの
かもしれない。
刻はゆっくりと顔を近づけた。
額と額をすり合わせるように近づけると
睫毛と睫毛とが触れ合ってくすぐったい。
それが心地よくて、少し息苦しい。
体温がまた上がっていくのを感じた。
「よんばんの髪とか腕とか、手とか全部好きやわ。」
「え?そ…そう?」
唐突な遊騎の言葉に、とくん、と鼓動が大きく鳴った。
思わず上ずった声が出たのが恥ずかしい。
まったく同じことを、今遊騎に対して感じていたからだ。
動悸を悟られたくなくて、刻は遊騎の唇を塞いだ。
触れるだけのキスが、次第に深いものに変わっていく。
上気した互いの体温に、刻の香水が時折ふわりと香り、
遊騎の身体にしみ込むように互いの肌が重ね合わさっていく。
愛おしさが同時に強い渇望へと変わっていく。
――知らなかった頃には、もう戻れない。
fin