外は雨だ。
久しぶりに部屋の中で音楽でも堪能しようか、と鼻歌交じりに立ち上がったところで、
インターフォンが鳴った。
ドアを開けると、そこに立っていたのは全身びしょ濡れのイギリスだった。
メールで連絡もないままの急な来訪にフランスは驚いたけれど、それにかまわず
髪から水滴を滴らせたイギリスが面白くなさそうに玄関の敷居をまたぐ。
床に視線を落とすと、濡れた足跡が点々と続いていた。
「雨に打たれた。シャワー貸せよ」
「…珍しいね…」
窓の外は確認しなかったけれど相当ひどい雨が降っているらしい。
濡れたシャツが肌に張り付くのを鬱陶しそうに引っ張りながら、イギリスは
一直線で浴室に向かい、上着ごとそれを脱ぎ捨てる。
「…おい。脱ぎ散らかすなよ。」
「うるせぇ片付けろ。」
無作法に訪れておいてその言い草はなんだ。と、
言いたいことはあったものの、季節外れな冷たい雨に
打たれた相手を少しばかり気の毒に思い、開きかけた口を閉ざした。
ズボンごと下着まで一緒に脱ぎ捨てられた服を
見つめながら「やれやれ。」と小さく一人ごちる。
リビングのソファで一息ついてるとイギリスがタオル一枚でバスルームから出てきた。
ガシガシと無造作にただでさえボサボサの頭を拭きながら、ほのかな湯気を立ててフランスの横を通り抜けていく。羞恥心も何もない行動に流石のフランスも酒に酔った時の自分の行動なんて忘れて呆れ返った。
「おいおい大胆だなぁ。」
知らない仲ではない。もちろんイギリスの裸なんて見慣れているのだけれど。
こんな風に見せびらかすようにバスルームから出てくるなんてどういうつもりだ?
機嫌が良くないように見えるのはただ突然の雷雨に打たれたせいだけではないらしい。
おそらく仕事で何か嫌なことでもあったんだろう。多分、アメリカ絡みの。
そういう時に、イギリスはきまってここへ来る。
フランスに抱かれるために。
「バスローブがあっただろうよ。」
「お前のは肌になじまねぇよ…うちの方が品質が良いからな」
小さく付け加えて、イギリスは勝手にフランスのクローゼットに指を掛ける。
中からどれでも同じだ、と適当な一枚のシャツを手にとった。
言い返しても無意味だと黙って視線を向けていると全裸にシャツを羽織っただけのイギリスが、悪戯っぽい微笑みを浮かべてフランスの前に立ってきた。
シャワーの名残か、まだほんのりと頬が紅潮している。
白いシャツが膝まで隠す身体は、はっきりいって唆る。
その隙間にチラチラと見え隠れする白い太腿に自然と目線を奪われた。
その感想をそのまま相手に告げようかどうかと思案していたところ、
「なぁ、オレを見て欲情してんだろ。」
唐突な台詞と共に、怪しげな表情を作ってイギリスがフランスを見上げてきた。
「さぁどうだろうねぇ…」
突拍子もない言葉に、フランスはしれっと返す。
「シャツ一枚とか、ベタだけど悪くねぇだろ?」
「ベタ過ぎてお兄さんもう場慣れしちゃったなぁ…」
「…何だよ、欲情しないってのか?」
イギリスはにじり寄るようにして、ソファの上に片膝を乗せた。
少し開いた脚の合間から、太腿が見え隠れしている。
「なんだかんだ言ってもいつもめちゃくちゃするくせに…」
「…そりゃお互い様だろ…」
「…来いよ…。」
イギリスの細い腕がフランスの首に絡みつき、互いの吐息が交わる。
口許の端を歪めてまっすぐに見つめてくるイギリスは、幼い顔立ちに似合わず扇情的だった。
「朝まで付き合ってもらおうか…」
そう言って、今着たばかりのシャツをはだけて見せる。
「欲情しただろ?」
耳元で誘うように声が響いた。
フランスの背中にゾクリとしたものが走った。
くすぐられる、支配欲と優越感。
イギリスの後頭部を掻き抱いて唇を塞ぐ。
「がっついてんじゃねぇよ…」
勝ち誇ったようにイギリスが呟いた。
今日のような自暴自棄なイギリスを貪るのは、悪趣味だという自覚はある。
かといってそれを撥ね付けることが出来ないのは単なる同情からではなかった。
イギリスの身体は自分にとって十二分に魅力的だ。
この強くて美しい獣には面倒を見ていた昔から興味を引かれ続けている。
時折感じるそれは、理性が蒸発する。そんな衝動だった。
高揚感が、フランスの中にこみ上げてくる。
潤んだ緑の瞳がフランスだけを映し出していた。
FIN.
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