「何のつもりだばかぁぁぁぁ!」
部屋に入るなり、イギリスは大声で叫んだ。
けれど背後から自分の肩に置かれた大きな手は
その声に全く動じることなく、
グイ、と部屋の中へとイギリスの身体を押してきた。
力に抵抗しきれずイギリスが前のめりになって2・3歩前に進むと、
カチャリ、とドアのカギがかかる音が耳に入る。
一瞬イギリスは背筋に冷たいものが走る気がした。
そのままくるりと振り返ったイギリスがきつい瞳で睨みつけた相手は、
真逆の表情で瞳を細めてニコニコ微笑んでいる。
「・・・・。」
しばらくあっけに取られて言葉を失いながら、
イギリスは混乱した脳内で瞬時にあれこれと色々な考えを張り巡らせた。
『ああやっぱり自分から訪ねるなんてらしくないことするんじゃなかった。
でもこいつすごく嬉しそうなんだけど。それにしてもこの部屋はなんなんだよ
なんでこんなに飾り付けられてんだよ日本から何か聞いてたのか?
大体なんでいきなり寝室に連れ込まれてカギかけるんだ。
そもそもなんで俺はチョコレートなんて持って大嫌いなこいつのところに来ちまったんだ。
いやたしかに告白されて考え込んで日本にチョコレートでも持って訪ねて行けば
答えがわかりますよって言われたんだけど・・・。』
色々考えて、
イギリスは改めて自分の身体からサッっと血の気の引くのを感じた。
好きだよ。イギリス君。」
しばらく呆然として固まっていたイギリスの耳元に唇を寄せてロシアがそっと囁く。
瞬間耳が熱くなった。
血の気が引いたと思った身体に今度は一気に血が上って、
イギリスは視界がグラつくのを感じた。
好き・・・?こいつが俺を。
冗談だと思ってでもなんとなく冗談だってのに腹がたって
日本の所に愚痴りに行ったんだ。
そうしたら日本が真面目な顔で
「あの人は真剣ですよ。イギリスさんはどうなんですか?」なんて
聞いてくるから解らなくなったんだ。
考えがまとまらず固まったままのイギリスに、
「まさか、君がチョコレート持って
バレンタインに来てくれるなんて思わなかったなぁ。」
どこか意地悪に見える微笑を浮かべながら、
ロシアが楽しそうに呟いた。
「は?!」
「あのね、日本君のところでは、バレンタインは
好きな男の子にチョコレートを送って愛を告白する日なんだよ。
ちなみにうちでは『恋人同士の祝日』だから、
僕達今日は部屋でゆっくり愛を暖め合おうね!」
「な・・・ななな何言ってんだよ!うちじゃチョコレートなんて関係ねえよ!
告白なんか誰がするかばかぁぁぁ!」
「まぁ、僕も君が本当のこと知った上で
わざわざ日本君のところからチョコレート持って来てくれるなんて思ってないけどね。
でもさっき日本君から電話貰ったんだ。『多分、大丈夫でしょう。』って。」
そう言ってロシアは耳と顔を真っ赤にして
全身固まっているイギリスの身体をヒョイと抱え上げた。
「ちょっと待て!意味わかんねぇよ!下ろせよバカ!何する気なんだよ!」
足をバタつかせても腕を振り上げてもビクともしない。
そのまま下ろされたのはクラシックで落ち着いた色合いを好む
自分の趣味とかけ離れすぎた、
バカバカしい程の少女趣味なフリルとリボンと
薄いピンクに飾り付けられた天蓋つきのベッド。
ずっと以前にフランスと一緒に
セーシェルの誕生日に買ってやったベッドを思い出す・・・。
なんでこのバカバカしい少女趣味なベッドで自分が・・・ロシアと?
ありえない。心の準備も何もあったものじゃない。
正直男に抱かれたことが無いわけではないし、
色事は嫌いじゃないし、物事の順番がどうとか
いきなり肉体関係はないだろうとか言うつもりは無いが、
ロシアが自分を好きなんていうのがそもそも本当なのか?
覆いかぶさってくる自分よりかなり大きな身体を
両手で必死に押しのけながらもまだあれこれ考えがまとまらないまま、
顔をまともに見られないイギリスに、
ロシアは面白そうに声を立てて笑ってみせた。
「君は・・本当にかわいいなぁ。この部屋ね、
ずっと君の為に用意してたんだ。
いつか君が僕を受け入れてくれるときには、
とびっきりのお姫様みたいに扱ってあげようと思ってさ?」
「な・・・なにがお姫様だよバカァッ!」
ドン、と窮屈な体制から力一杯ロシアの肩を叩いて見せたけれど、
それに全く動じないロシアはそのままイギリスの手に唇を押し当てた。
慌てて手を引っ込めようとしたところで、
今度は顔をグイ、と強引にロシアの方に向けられる。
「おまえっ・・・いいかげんにっ・・・!」
そこまで言いかけたところで、
「・・・いいよね?」
ロシアにそう低く囁かれた瞬間、
イギリスは時間と思考が一気に止まってしまった気がした。
「・・・・っ・・。」
それでも慌てて何か言葉を発しようとし、
でもどうしても何も言えない自分にパニックになった
イギリスの唇に、同じものが重ねられる感触が伝わる。
「ん・・・んんっ・・・」
そのまま、ただ触れるだけの口付けを何度か繰りかえされた。
顎を固定する指や、覆いかぶさった身体から伝わる温もりに
「ロシアってこんなに 温かいのか・・・。」と一瞬冷静な思考がめぐる。
ロシアの唇が、イギリスの瞼や額や頬に優しく落とされる。
いつのまにかそれを心地よく感じ始めたイギリスの身体が、
抗えない陶酔感に包まれ始めた。
軽く触れるだけのキスが次第に深いものになって、
舌で唇をなぞられる感触にゾクリと身体を震わせられ、
イギリスの唇から熱を帯びた吐息が漏れた。
早鐘を打ち始めた心臓の音が、煩わしいほど耳に響く。
絡められた舌に、いつの間にか答えてしまっている自分に羞恥が込み上げた。
抵抗したい。どうして出来ないんだろう。
そう考える一方で、ロシアに触れられる箇所から体中へと、
甘い痺れに似た感触が浸潤していく。
几帳面に結ばれたイギリスのネクタイを器用に外しながら
はだけたシャツの間に指をもぐりこませ、一旦離された唇が首筋をなぞると、
イギリスの身体が一度ビクンと大きく跳ねて、小刻みに震えだす。
震える胸の突起を口に含み、舌先で転がすように愛撫されると、
「あっ・・・やだぁっ!」
とイギリスの声が一際大きくなって大きく首を振った。
潤ませた瞳に吐息を弾ませてすがる様な視線を向けるイギリスの
姿は扇情的で、ロシアの支配欲を十分すぎるほどに掻き立てる。
「君って本当に・・・。天然だね」
『堪らないなぁ。』と心の中で呟いて、ロシアはイギリスの額にチュ、と口付けた。
ロシアに言われた言葉の意味が読み取れず、
イギリスは荒い息を少し整えながら涙を浮かべて相手を睨み付けた。
「・・・いやじゃないよね?」
きつい視線を笑顔で受け止めたロシアは再び耳元で囁きながら、
すでに下肢の間で熱を持って立ち上がったイギリス自身に指を絡める。
「あっ・・ひっ・・・いやだっ・・・!」
否定するイギリスの声が聴こえないかのように指先で先端部分をなぞると、
すぐに溢れ出した半透明の液体がロシアの指を濡らし始めた。
「んんっ・・・・やだっ・・・。」
「いやがってないよ。イギリス君。ここ、すごく悦んでるじゃない。」
そのまま先端を口に含まれ、強く吸い上げられながら
根元まで包み込んだ手のひらで擦りあげられると、
「い・・・やだっ・・。あ・・・いっ・・・!」
必死で首を振って耐えようとしながらも
イギリスの身体はあっけなく絶頂まで達した。
ロシアの手のひらに、白濁の液体が吐き出される。
「はぁ・・・あ・・・。」
急激な脱力感に襲われながら肩で息をするイギリスの瞳から
生理的な涙が溢れるのを、愛おしそうに舌先で拭って見せると
指先に今イギリスの吐き出した液体を絡めて、
その膝を片方軽々と持ち上げた。
「ひっ・・・。」
イギリスの声に、苦痛が混じる。
初めてではないけれど、
蕾は異物の進入に当たり前のように悲鳴を上げた。
硬直したイギリスの身体に、痛みと違和感が同時に走る。
それでも一度強引に奥まで指を押し入れられ、中でかき回されると
痛み以外の感覚が下半身に伝わり始める。
ジンジンとひろがる感覚に、
一度熱を失ったイギリス自身が再び反応し始めた。
異物を拒んでいたはずの蕾は2本目の指も受け入れて締め付けながら、
湿った音すら立て始めている。
羞恥で枕に顔を埋めながらも、
イギリスの身体はロシアを受け入れる準備を整えつつあった。
「ここ・・・随分キモチイイみたいだね?」
イギリスの身体がより強く反応する箇所を捜し当てたロシアが、
からかうようにその場所を攻め立てる。
「や・・・めてっ・・・ソコ・・・たのむからもう・・・」
「やめないと、どうなっちゃうのかな?」
口元に笑いを浮かべて、ロシアは更に激しく指を動かしていく。
「や・・・へっ・・へんになるから・・・もう・・・」
「もう、入れて欲しいの?」
「・・・っ・・・。」
枕に顔を伏せたままで、イギリスは小さく頷く。
「言ってくれないと、このまま続けるよ?」
ギュ、と張り詰めた根元を片方の手で強く握られたまま、
内部に差し込まれた指を激しく動かされて、
イギリスは大きく首を振って抗った。
もう、2度目の絶頂が訪れかかっているのに、
根元を強く握られていてそれを許してくれない。
「んっ・・・んんー!!!ヤダっ・・・もう、」
「もう何?」
「もう・・・イカせて・・・。」
「ちょっとイタイかもしれないけど・・・君なら、平気だよね?」
そう言って、ロシアは激しく熱を持ったそれを蕾の入り口へと押し当てる。
「イッ・・・イタ・・・ムリっ・・・」
すでに指で念入りに解きほぐされていたのにもかかわらず、
先端が入り口を押し広げて入り込んできた瞬間に、
イギリスの下半身に激痛が広がった。
「や・・・抜いてっ・・・痛い!」
「ゴメンネ。少し、我慢して・・・。」
気遣いながらも、
自分の腕の中でエメラルドグリーンの瞳から涙を溢れさせ、
悲鳴を上げるイギリスの苦痛に歪んだ表情はロシアを存分に昂らせていた。
侵入を拒もうとするイギリスの腰を抱え込んで、さらに奥へと侵入を進める。
苦しさから逃れようとするイギリスの爪が、
ロシアの背中に幾筋もの赤い痕を残していく。
その痛みに何度か眉をひそめながらも、
ロシアはかまわずイギリスの内部を突き立てていった。
「ひっ・・・ん・・・ん・・・あ・・」
やがて、イギリスの声に苦痛以外の色が混じりだしたのを確認して、
ロシアは少しほっとしたように息を一つ吐くと、
より高くイギリスの膝を抱え込んでその身体を強く揺さぶっていった。
擦りあげられる度に、
意識が飛びそうな程の甘い痺れがイギリスの身体を侵略していく。
かつて経験したことが無い圧迫感と質量に
体中が悲鳴を上げているはずなのに、
イギリスの腰はロシアの動きに合わせてガクガクと震えだし、
背中に回した腕に力を込めてグイ、とロシアの頭を引き寄せると、
「も・・・もう・・・イク・・・。」
と耳元で無意識のおねだりをしてみせる。
「・・・本当に君って。」
怖いなぁ、と思う。この無意識の魔性で色々な人間を狂わせる。
ようやく手に入れた。大切にしたい。でも、逃げようとするなら。
「閉じ込めておきたいなぁ。」
そう低く呟いた言葉を理解する余裕がイギリスには無かった。
「あ・・・ああっ!ダメッ・・・」
一際大きな声を上げると、そこからより激しく動かされ、
きつく閉じた瞼の裏が真っ白に弾けたような錯覚の後で
激しすぎる快感の波がイギリスを襲った。
痙攣する下腹部に自分とロシアの熱を同時に感じながら、
イギリスはその意識を手放した。
翌日、といってもまる15時間も経ってから目を覚まして、
イギリスは例によって死にたくなった。
たちの悪い2日酔いなんてものじゃない。
身体にも精神にも、ダメージが大きすぎる。
寝てる・・・というか不覚にも気絶してる間にロシアは、
アメリカにもフランスにも日本にも
「恋人宣言」の電話をしてやがったのだから。
この先どうしよう。目の前が真っ暗だ。
でも本当はそんなのはなんとでも言い訳出来るのだ。
言い訳できないのは、
それに対してちょっとでも嬉しいと思ってしまった自分自身にだ。
ガバっと毛布を被って再び自己嫌悪の嵐に見舞われる。
ロシアを、好きになってしまった・・・いや、前から好きだった?
混乱するイギリスの耳に、ドアをガチャリと開ける音が響く。
ノックもせずに近づいて来るのは当然、恋人の足音だった。